的を得る


2015年1月31日(土)


頭脳と体力に優れた男が足の痛みを訴え病院へ駆け込んだ。

訪ねた先の病院は実は秘密結社だったのだ。あれよこれよと人造人間へと改造されていく男。事が済んでも強靭すぎる肉体により改造されていることに気付かず、戦闘員教育プログラムを完治するまでしばらくの間の心構え、生活習慣の改善の為の研修と思い素直に聞いた。

最後の仕上げとばかりに結社は男を催眠洗脳で自分たちに都合の良い駒にしようとする。

しかし、男が患っていた『むずむず脚症候群』は治っていなかったのだ!! 体内に埋め込まれた謎の金属は鉄分摂取の為ではなかったのか。光が遠くなった目で自分の足を見やる。足の指先を針で突かれるような痛み。これではまるで拷問だ。

足の痛みに耐え切り、ひとまず無事に催眠状態から抜け出した男。それから数週間、男の足はまったく良くならない。拷問により精神を病んだ男は結社から抜け出し、野菜バーへ通うようになる。牛乳と野菜をたくさん摂り、自律神経を安定させるためだ。

いつしかその野菜バーで出会った女性、ヤサ子と親しくなる男。彼女と接している間はかつて崩壊した精神も落ち着き、次第に男は惹かれていったのだ。

そんな安らぎの日々は奇妙な生物達により終わりを告げられる。

「ヤサ子さぁん、足が治ったお祝いに良い味噌を持ってき……なんだこれ……」

ドアベルの音が頭を冷やす。店に足を踏み入れ目に映るのは、これまでまぶしい笑顔を向けてくれた彼女の冷たい肢体。ヤサ子の周りに転がっている色とりどりの野菜をどかしながら歩み寄る中、水気を含んだ不吉な音が耳に届く

「……」プチトマトぐちゃあ……

「お、お前が……やったのか……!?」

「……キヒッ……ヒヒヒッ!」ミニトマトぐちゃあ……

「ッ! テメェ……!!」

「ミツケッ……イヒヒッ……たぁ♪」トマトぐちゃあ……

「何?」

「サイキョウの……セントウイン」ミディトマトぐちゃあ……

「ッ!?」

男は目の前の生物の言っている事がわからなかった。しかし、これだけはわかった気がする。それは目の前にいるコイツがヤサ子さんを傷つけたということ

そこまで考えが至って男の肉体に変化が訪れる。それは行き場を見つけた怒りが全身を駆け巡り、敵を討てと叫び、勝手に動き出す。

しかし、男が抱えた壷の蓋を外した刹那!!

「殺ってやる……ウゴァァァアアアァアア!」味噌ぐちゃぁ……

「殺……ホバクゥゥウウゥゥゥウウウ!!!!」大玉トマトグッチャァァアアァァアア!!

大玉トマトを握りつぶした衝撃で男は吹き飛ばされ、手元にあった壷も割れてしまった! その音が聞こえたのか意識が戻ったヤサ子が何かを伝えようとする。

「うぅ……男くん、へん……しんを……」

「こんなこともあろうかと……ベルト……壷に……」

「……!! わかった! ベルトだな!!」

辺りを見渡し、味噌の山へ駆け、ヒモ状の物を拾い上げる男――!!

「変ッッッ身!!」

「セルカァ!!」大玉トマトグッチャァァアアァァアア!!

瞬時にベルトを装着し光に包まれた男、どこか懐かしい朝の香りと共に再び姿を現す。眼前には赤い旋風が迫り、先ほどは何も感じず吹き飛ばされた攻撃もほのかな酸味を楽しめた。

そして彼の背に倒れる彼女は

「あぁ……この香り、昔田舎で母さんがよく作ってくれたトマトの味噌汁の香りだわ……なんだか故郷が恋しくなってきちゃった。久しぶりに帰ろうかしら……思えば私が野菜バーを開いたのもトマトの味噌汁が理由だったのよね。コッチに出てきてからトマトの味噌汁が少数派で、バカにされたりもしたっけ……だからたくさんの人にトマトの味噌汁の良さをわかってもらうために店を開いたのに、女子(アラサー)に媚を売るようなスイカスムージーなんて……ッ!! こんな物ッ!!」スイカぽいっ

「グォォオオオォォオオオオオ!!!!!」怪人ぐちゃあ……

――説明しようッ!!

強靭な肉体と優秀な頭脳、そして足りないオツムを持った本作の主人公である男は、実は強靭な肉体と優秀な頭脳を世界のために役立てようと思っていたのだ!! しかし、彼はオツムが弱い為、現実的な手段ではなく正義の味方という漠然としたモノに憧れていたのだ。そして、実際に自分の目の前でヒロインに足る女性が傷つき、悲劇のヒーローを演じられると思えばコレダ!! 正義の味方に憧れ、目の前に悪が現れる。まさに的を得るとはこの事なのに機会を逃してしまった!! 誤用だけあってオチも誤りのようなものだな! HAHAHA!!

「――っふぅ」

「あの! ありがとう男くん!!」

感謝の言葉で背を受ける男は野菜バーの出入り口へと歩いていく

「私のために怒ってくれて……戦ってくれて本当にありがとう!! よかったら私とけっこ……」

カランと訪れた時よりも暖かい音が耳に染み入る。その音を楽しみ終えたとき驚愕の言葉が紡がれようとしていた。

「すまないヤサ子さん……味噌汁にトマトだけは受け入れられない」

これからも彼の戦いは続く!! 頑張れ男!! 理不尽なオチに負けるな男!! そしてラノベ展開なんかに流されるな! 目指せニチアサ!!

うじ虫トリビア:冬場になると寝る前に足が痒くなります。